看護部
病棟だより バックナンバー
9.昔を思い出したひととき
当病棟では全員が脳血管疾患や廃用症候群のために摂食・嚥下困難があり、普通食を普通に口から食べることができる方はいません。食べることのできる方全員がゼリー食ややわらか食といった形態の食事を食べています。栄養課や言語聴覚士(ST)と協力しながらできるだけその方の嗜好に合い、食べやすい形態の食事やおやつを検討し、少しでも満足のいく食事(食べたい時に食べたい物を食べられる)を提供できるよう心がけています。
日本人は米やお餅を多くの方が好んでいると思います。昨年の暮れも押し迫った12月26日、なんとかお餅を食べさせてあげたいという思いからスタッフで話し合い、いも餅とかぼちゃ団子のお汁粉なら多くの患者さんが楽しめるかも!ということになりました。スタッフの中から「自分が芋を炊いてくる」「私はかぼちゃ」と声が上がりました。「少しでも風味が逃げないように、温かいうちに食べさせてあげたい」という気持ちから、朝、早起きをして大きな文化鍋に芋を炊き、「重い、重い」と言いながら通勤バスに乗り込んで持参してくれました。ホコホコのお芋とかぼちゃを早速、みんなでつまみ食いすると、どのスタッフからも「美味しい!」と歓声が上がりました。そして、その温かさを少しでも保てるよう、スタッフが昔の知恵で新聞紙でくるんでいました。そんなスタッフたちの温かい気持ちに、感動した場面でした。
一通りのケアを終え、患者さんが中心となって10時過ぎから芋やかぼちゃを小麦粉と混ぜてこねる作業を開始しました。いつも、誘いをかけると「出来ない」と言っていたNさんは、今日はスムーズに参加してくれました。スープ作りや作品づくりを経験し自信を取り戻してきたせいかな?と思われます。また、少し厳しい性格のMさんは「どんどん持って来なさい」と、それはそれは丁寧に芋もちを作って、並べてくれました(意外な一面でした?)。女性群が芋もちを作っている場面を見て、以前に紹介した「白いまんまが食べたい」のHさんが、顔をくしゃくしゃにして「昼まで待てない!母親がよく作っていた。」と、昔を懐かしむ場面もありました。この方は球麻痺のために誤嚥性肺炎を発症するリスクがあった方ですが、本人の意欲と残存能力をスタッフが慎重に見守り食べることをチームで支えてきた結果、今では通常に近い形の食事をとることが出来るまでに回復しています。午前中に出来上がった芋もちをお汁粉にする前に、食べられる人だけで芋もちを焼いて食べたところ、どの患者さんからも「美味しい!」と声が上がり、満面の笑みが浮かんでいました。
午後からは、本番のお汁粉タイムです。芋もちは程良く口の中でとけ、あんこに良くからんでとても美味しい出来上がりでした。多くの患者さんがむせることもなく食べることができ、最高で4杯もお変わりする人がいました。行事が終わった後、「今度はいつやるのかね?」と、次の機会を心待ちにする発言もあり、患者さんの次の希望へとつなげることが出来たかな、と感じられました。
前回でも述べましたが、このちょっとした楽しみや希望・期待が単調な療養生活の中でも生きる張り合いに少しでもつながっていると思われます。
平成25年1月22日 洞爺温泉病院 看護部 西3病棟(介護療養病棟)
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