看護部
病棟だより バックナンバー
7.楽しいスープ作り
日々、限られた環境の中で年単位で入院している患者さんにとって、療養生活は色々と工夫はしていますが、味気ない毎日です。ちょっとドライブに行きたくても交通手段に制限があり、一握りの人しか行けません。大勢の人が楽しめるものは何かな?と考えていくと、やはり食べる楽しみ!と思い、作戦会議が始まりました。
最近食べたおいしいものは何か?その中で麻痺や廃用症候群により食べる機能が低下している人もおり、みんながおいしく食べられるものは何か?と考えていくと、新聞に掲載された“根菜スープ”(私はひそかに命のスープと言っています)に思い当りました。最初は、元気に生活していたころ、当たり前のように過ごしていた夕餉の時間を感じられたら、と思いました。配膳車からは保温のためドアが密閉されているので、食事時になってもあまり香りがしてきません。香りは食欲を刺激する大切な要素です。デイルームでスタッフが食材を調理し、出来上がるまでの間、包丁で刻む音と香りを楽しんでもらおうと提案。すると、以前に働いていた職場で食材の皮むきをしてもらったら、患者さんが楽しそうにやっていた、とスタッフより意見がありました。そこで、準備から患者さんに関わってもらい、主婦をしていたころを回想してもらえたらということに発想が広がりました。
さて、当日。初めての試みなのでスタッフはうまくいくか緊張。主婦役を依頼された患者さんは「そんなことできない!」という人がほとんど。こんなんでうまくいくのか?と不安が広がります。ところが、いざまな板と包丁を前にすると、患者さんが豹変!!「あら、この包丁、ずいぶん切れないわね、かえって危ないわ!」。指を切ってはとハラハラしているスタッフが手を出そうとすると「一人でやらせて!かまわないで!」。一方では、「そんなことできない」と言っていた人が、何事もなかったかのように淡々と見事な包丁さばきを披露。女性ばかりではなく男性陣も玉ねぎの皮をむいたりして参加。段々と食材特有の香りが漂ってきて、患者さんの顔も心なしかはずんでいるように見えます。
準備が整った後は現役の主婦にバトンタッチ。そこからがさながら戦場のよう。患者さんに負けじと、とんとん食材を刻んでいきます。あとは、食材を煮込むだけ。コトコトお鍋が音をだし、いい香りが漂ってきます。途中、院長先生が顔をだし「な〜んだ、まだできてないのか」ととてもがっかり顔で退場されたのが印象的でした。それから、待つこと30分あまり。早くできないかなというスタッフの焦りと、患者さんの待ち遠しさが対照的でした。やっと出来上がり、患者さんや家族に提供。どの人もうまいうまいと口にし、おかわりする人もいました。その日の夜勤に出勤してきた看護師にも「今日、作ったんだよ!出来ないと思ってたけどちゃんと包丁で切れた!楽しかった!!食べてくれた?」と何とも言えないくらい、いい表情で話してくれ、期待していた夕餉の回想とまでは至らなくても、ヘンダーソンの基本的欲求の14項目の中で言われている、患者自身のちょっとした達成感につながったのでは?と感じられました。
大盛況のうちにレクレーションは幕を閉じ、色々と反省する部分もありましたが、患者さんはひと時でも楽しい時間を過ごし、スタッフはやり遂げた充実感と患者さんの笑顔から、またまた元気をもらった一日であったなと思います。
平成24年10月3日 洞爺温泉病院 看護部 西3病棟(介護療養病棟)
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