看護部

病棟だより バックナンバー

2.変化が見られたうれしいできごと

〜エッー!話せるの!? 味わうこともできた!〜

私たちの病棟は、医療療養・障害者病棟で、全面介助の患者が多く入院されています。

定期・臨時入院の受け入れ、介護療養病棟より治療が必要となった患者の転棟受け入れなど、院内の中でも一番動きがある病棟です。

この7月に諸事情により当院に転院してきたMさんは、93歳の女性で加齢による認知症を伴っている方でした。転院時、老人性皮膚掻痒症で軟膏処置を続けていても全身の掻痒動作が激しく、皮膚を傷つけるという理由で両手を抑制されていました。

まず、「本当に抑制は必要なのか」。

入院時のMさんは、両腕や大腿部に手をやる掻痒感と考えられる動きと、皮膚の掻き傷、頭を左右に動かしたり腰をもぞもぞ動かす掻痒感とは違う不隨意的な動きもあり、常に苦痛表情で、発語はなく、ほとんど目も開けることはありませんでした。経口摂取も”誤飲がある”と数年間絶食で過ごされていたようでした。”Mさんの苦痛を取り除きたい””人として生きる楽しみを見つけられないだろうか”と、チーム全体で関わりが始まりました!

抑制をはずして手の動きを観察してみると、掻き動作はあるもののIVHに手を伸ばし抜こうとするなどの危険な行為はなく、掻痒感対策をきちんと行うと抑制は必要ないと話し合い、抑制を外し軟膏の見直しと入浴、そして保湿に力を入れました。およそ、一週間ほどで皮膚の状態が正常に近づき、徐々に掻痒動作も減り、皮膚の発赤、掻き傷も快方に向かいました。

少しいい表情になった!

さらに、「なにか口にすることはできないか」に挑戦。

口に溜まった唾液を飲み込んでいることを確認し、基本的欲求である”口から食べる”ことを試みました。手元にあったさくらんぼを口角から少しだけ果汁にして流し入れてみました。すると、味わう口の動きと、かすかに「すっぱ〜い!」としゃべり、反応がないだろうと思いながらも好きなものを問うと、「ずーっと食べてないのでわすれた〜」と、期せず返事が返ってきたのにはびっくり!!!

これをきっかけに、お茶ゼリーに味をつけるなど工夫し、はじめは1〜2口、今は200mlも食べられるようになりました。嫌いな味のときは口をすぼめたり、顔をしかめたり、好みの味のときは、スプーンを口に近づけると開けてくれるなど、味覚表現もできいい変化がみられてきました。また、清拭後に「ありがとう」、「気持ちいい」などの単語も聞くことができます。

ある日、緩和ケア病棟のバーベキューパーティーに案内しました。それまで閉眼が多かったMさん、焼肉の網に近づくと、匂いに誘われたのでしようか目を開け周りを見渡すように首を動かし、いつもと違った反応を示しました。口元に持っていった焼肉はどうやら好まないようでしたが、ジュースはおいしそうに飲んでもらえました。

今回の関わりは、改善は難しいけれど、「辛い表情をしている」「抑制を外したい」「何かを口にすることは可能か」など、そのおかれた状況の中で少しでも”生活の質”を高めたいと思ったことが”人が本来持っている力”をチョットとだけでも引き出すことに繋がったのだと、関わりの重要性を再認識させられました。今後も、患者にどのようにあればいいのかを考え、あきらめずに、業務に流されることなく、”可能性を引き出す”そんなかかわりを大事にできる病棟でありたいと思っています。

平成18年9月1日 洞爺温泉病院 看護部


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